市民発電所台帳2017

「市民発電所台帳2017」 は、小規模な市民電力事業の実態を把握し、政策提言等につなげることを目的に作成したものです。

 

2015年9〜2017年6月の期間において「市民電力連絡会」会員団体ならびに外部団体に協力をお願いし、所有する発電所についてアンケート調査を行い、回答のあった53団体の221発電所のうち、風力発電所を除く220発電所(出力合計9,924.931kW )のデータを集計したものです。

 

今回寄せられた221発電所の太陽光発電設備データの集計結果を、各事業者や団体で参考にして、より効率的な設備設置をめざしていただきたいと思います。

 

今後さらに調査対象を広げ、風力発電や小水力発電など様々な発電種別のデータ集積に努めながら、より緻密で正確な情報としていきたいと思います。



市民発電所台帳2017とは

データ蓄積と発信の必要性

 市民電力台帳は、市民電力連絡会の中で発案されたものである。市民電力連絡会は、余剰売電ではなく全量売電の事業ではあるが、比較的小規模な発電所を設置、運営する団体の集まりである。団体の中には、株式会社もあればNPO法人、さらには法人格を持たない任意団体まで含まれる。

 

 発電所の規模も、10kWそこそこから、合計で1MWを超える規模まである(風力発電は除く)。ほとんどが太陽光発電で、いわゆる低圧と呼ばれる50kW未満の発電所の運営団体が大部分を占める。つまり政府等の審議会では、あまり蓄積データが示されない、10kWから50kW未満の発電事業者の集まりである。

 

 FIT価格等の算定においては、1MWをはるかに超えるような発電所のデータがベースとなり、低圧規模の発電所は、大規模発電所ほど設備価格は下がっていないにもかかわらず、価格は同等に下げられ続けている。この原因は、ひとえに現場データの不足にあると考え、問題解決のためには、その対象規模の事業者自身がデータを蓄積し、積極的に発信するようにならなければいけないと考えるに至った。


これまでの取り組み (市民電力台帳2016)

  一方、市民がつくる太陽光発電所の全国ネットワークである「市民共同発電所全国フォーラム」でも、全国の発電所の数や設備容量を把握するために調査をはじめており、その目的が一部では共通するため、2016年には両者が相互乗り入れをする形で、アンケート方式で情報を集めた。これを市民電力連絡会としてまとめたものが、2016年度版の市民電力台帳である。

 

 ただ、この2016年度版は、集計結果をとりあえずグラフ化し、データとして提供するに止まっており、データの分析や政策的な問題提起にはなっていなかった。その点を進化させ、様々な議論の素材となるようなものにしたいというのが、今回、市民電力台帳2017年度版をまとめるに至った出発点である。

ダウンロード
市民発電所台帳2016.pdf
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市民電力台帳2017

 今年度(2017年)は、地域・市民共同発電所全国フォーラムとの協力体制を維持しつつ、さらに調査対象を広げ、ご当地エネルギー協会にも協力を要請した。ご当地エネルギー協会は、市民電力連絡会よりも大規模な発電事業を行っている事業者の全国ネットワークである。事業者の中には20MW、30MWというような規模の発電所を運営しているところもある。ご当地エネルギー協会の会員のうち、かなりの団体から情報提供をいただくことができた。その結果、昨年の対象発電所が100件程度であったのに対し、今年は200件を超え、一つの傾向をまとめるに十分な数となった。


低圧発電所(太陽光50KW未満)の大まかな傾向

 まず大きな傾向として発電所数の伸び方である。(図1参照)

 2008年から2017年までの集計となっているが、新規建設のピークは2014年で、以後2015年から3年間は、比較的目に見えて減少している。2012年から2013年、2013年から2014年にかけては2倍どころではない伸び率を示しているが、2015年、2016年には急激に減少している。

 発電出力では、その傾向がさらに激しくなっており、FIT制度による買取価格が急激に低下しているのと、比較的連動していることが推察できる。つまり2012年のFIT法の施行以後、急激に発電所が増えるが、そのピークは2014年で、以後はFIT価格の低下が発電所の伸びに急ブレーキをかけたと読める。

図1. 発電所設置数、出力数の推移


 次に施行単価にも大きな特徴が表れている。(図4参照)

 FIT法の施行年である2012年を境に全く違う傾向が表れている。一般的には太陽光発電設備の施工(設備)単価は、1990年代から段階的に下がってきたように思われているが、2009年から2011年にかけてはむしろ増加している。これは当時の日本版RPS法では、太陽光発電の普及を促すことができず、設備価格を下げるという効果も乏しかったことを示している。

図2. 施工単価の推移


 一方で2013年には、2012年の半分以下に下がっている。これは2012年に施行されたFIT法の効果がいかに大きかったかを示しているとも言える。しかし、その後の施工単価の下がり方は遅い。急速にFIT価格を下げるという政策が、施工単価を下げるという効果を生んでいないことを示している。この大部分は10kW以上50kW未満の小規模発電所であるので、まさにその規模の発電所にとってはFIT価格の急激な下落は、事業としての採算性を悪くしていると言える。その結果が図2の「伸びの低下」となって現れているのだろう。

同じ傾向が図5(左)でも見て取れる。2014年に急激に伸びて、その後急激にしぼんでいるのが10kWから50kW未満の低圧発電所である。

 

図5(右)では、10kW未満、10kWから50kW未満、50kW以上の3区分での施工単価の動きを見ることができる。10kWから50kW未満では2016年あたりで価格の下げ止まりが起こっているように見えるし、10kW未満に至ってはばらつきが大きくFIT効果が読みきれないが、このような「低圧発電所」の集計を行った事例は希少であると思われるので、今後の政策立案等に活用されることを期待したい。

 

(市民電力連絡会理事長 竹村英明)

図5. 発電規模別施工単価の推移


小冊子「市民発電所台帳2017」

「市民発電所台帳2017」を発行します!

識者による市民発電所の「講評」文をはじめ、当サイトでは読むことのできないオリジナルの記事も掲載しています。ご希望者は、市民電力連絡会へ直接お申込みください。


NPO法人 市民電力連絡会
https://peoplespowernetwork.jimdo.com


FAX : 03-6380-5244
Mail :ppn2014info(a)gmail.com
※(a)を@にご変更願います。

 

 

小冊子「市民発電所台帳2017」

発行者:NPO法人 市民電力連絡会

発行日:2017年8月

A4版フルカラー 36ページ
分価200円(送料別)



市民発電所MAP


発電所の正確な地点ではなく、所在する自治体の役所の位置がプロットされています(住所特定を避ける配慮のため)


台帳データの一覧表示

一覧表の最上部の項目欄で昇順/降順の切り替えができます 


台帳データを基に作成したグラフ

図1. 発電所設置数、出力数の推移

2012年から翌年、2013年から翌年にかけては 2倍以上の伸び率を示しているのに対し、2015年、2016年には急激に減少しています。つまり 2012年の FIT 法の施行以後、急激に発電所が増えましたが、そのピークは 2014年で、以後は FIT 価格の低下が発電所の伸びに急ブレーキをかけたと読めます。しかし、よく見ると、50kW以上の設置数は増えており、伸びの低下は、50kW未満の発電所に顕著に表れていることがわかります。(西暦は発電開始年)


図2.施工単価の推移

一般的には太陽光発電設備の施工(設備)単価は、段階的に下がってきたように思われていますが、2009年から 2011年にかけてはむしろ増加しています。これは当時の日本版 RPS 法では、太陽光発電の普及を促すことができず、設備価格を下げるという効果も乏しかったことを示しています。一方で 2013年には、2012年の半分以下に下がっています。これは 2012年に施行された FIT 法の効果がいかに大きかったかを示しているともいえます。(西暦は発電開始年)


図3.工法別発電所数、出力数の比率

発電所数は圧倒的に「屋根上」が多く、しかし、出力数になるとその比率は 3分の1 になります。逆に「野立て」は、発電所数では 20%に過ぎませんが、出力数ではほぼ半数になります。屋根上よりもはるかに多くの出力が確保できることがわかります。畑もしくは田んぼの上に隙間を開けて太陽光発電設備を設置して売電事業を行う「ソーラーシェアリング」は、発電所数比率と出力数比率が比較的バランスしています。ソーラーシェアリングの場合、10kW 未満はほとんどなく、多くが 50kW 前後であることによるものと思われます。


図4.工法別発電所数、出力数の推移

発電所数で特徴的なのは、2014年の「屋根上」の急激な伸びです。しかし、2015年以後の「屋根上」は惨憺たる惨状となっています。「野立て」は、「屋根上」と似た動きですが、ピークが 2015年にきており、しかも「屋根上」ほどには突出していません。2014年と 2015年の違いは、もっぱら屋根上で事業を追求していた市民電力が野立てに進出しはじめたという変化を表しているともいえます。ただ、その後は伸びていません。むしろ「ソーラーシェアリング」がそれに取って代わっています。


図5.発電規模別施工単価の推移

左の対象発電所数で、2014年に急激に伸びて、その後急激にしぼんでいるのが 10kW から 50kW 未満の低圧発電所です。まさにその規模の発電所が、当会の対象発電所として多いということでもありますが、この規模の発電所にとって、FIT 価格の急激な下落は、事業としての採算性を極端に悪くしたと見て間違いありません。


図6.工法別施工単価の推移

「屋根上」「野立て」ともに、施工単価は確実に下がってきています。ただ、「ソーラーシェアリング」については、太陽追尾型のスマートターン方式など、工法について試行錯誤の最中でもあり、それが価格のブレとして現れています。「屋根上」「野立て」の下げ幅は、比率的には 2割から 3割です。kW あたり 42円から 21円に下げられた FIT 価格に比べると、明らかに緩やかです。この差が、設置の伸びを鈍らせることに影響したことは、ほぼ確実であると思われます。


図7.売電単価の分布

余剰売電では 42円、全量売電では 36円が最も多くなっています。これは「屋根上」が 2014年にピークとなり、「野立て」が 2015年にピークとなっている図6とほぼ一致しています。一般的に小規模発電所では、認定から設置時期までのかい離は少ないといわれています。それでも図からは、2013年度価格である 36円の発電所のほとんどが 2014年以降に設置され、2016年以降につくられたものも 7つ数えられます。小さな発電所においても、少しでも高い買取価格を求めて、早期の認定取得への取り組みがあったということになります。


図8.発電規模別系統接続費用の分布

最上部のグラフでは発電規模ごとに、系統接続費用について、全体の相場観を示してみました。その下の 3つのグラフは、同じ「東電管内」でも地域差があることを確認する目的で、東京 23区と、より家屋密集度の低い 2県の系統接続費用を比較してみました。なお 10kW 未満の発電所は、原則として余剰売電となるため、系統接続費用は不要(回答も不要)ですが、旧制度の時代に建設された発電所の回答が若干含まれています。


図9.系統接続費用の推移

太陽光で発電した電力を電力会社の系統に流す際、接続するため送電線や配電線を整備する費用が系統接続費用です。しかし、電力会社から一方的に通知されるだけで、その内訳はなかなか分かりません。近年とくにその高騰ぶりが市民電力団体の間で問題視されるため、低圧連系と高圧連系に分けて、系統接続費用の経年変化を追ってみました。グラフの縦軸は、ここでは単純に発電所数としてみました。


図10.資金調達の方法

最も多かったのは金融機関融資(106か所)であり、次いで多かったのは自己資金(64か所)でした。第3位には市民出資と擬似私募債が各 46か所で並びます。それらの資金調達手段を発電出力規模別に並べてみると、発電出力が 20kW台までと比較的小規模の場合は疑似私募債や寄付金ですが、それを超えるとオーナー制、市民出資、助成金、金融機関からの融資、私募債、自己資金となります。建設しようとする発電所の発電規模に応じて適切な資金調達手段を選んでいることが分かります。


図11.資金調達方法の推移

建設された年によっても資金調達手段の選択に変化が見られます。買取価格が下がるにつれて市民出資や疑似私募債は低調となる一方で、金融機関融資が有力となり、2017年においては自己資金が最も多くなっています。FIT スタート時点では比較的容易な資金調達手段である疑似私募債が多用され、買取価格の急激な低下に伴って採算性が望める規模へと拡大していき、高額な施工費用をまかなうため金融機関の活用や自ら資金を用意する方向へシフトしていったと考えられます。


図12.さまざまな資金調達方法の特徴

1990年代半ばから始まった市民共同発電所建設運動では出資型と寄付型が主なものでした。2000年初頭に風力発電建設が始まると、匿名組合出資契約に基づき市民から出資を募り、売電収入に基づき配当する手法が入ってきます。そして、2012年 7月に固定価格買取制度(FIT)がスタートすると、事業採算性が出てきたことから様々な手法が登場することになります。

(図は、小冊子版「市民発電所台帳2017」第一章4の記事に基づいたものです)


図13.市民発電所の設置場所

集合住宅から工場・倉庫等までの7つは建物であり、残る農地から公有地・遊休地は土地の上(非建物)です。発電所数でみると、建物が 3分の2 を占めますが、出力数では 4分の1 になります。逆に農地、山林、公有地などの非建物は、発電所数で 3分の1 ですが、出力数では 3分の2 ぐらいになります。建物の制約がない方が、大きな発電所を作ることができるということでもあります。


図14.市民発電所設置場所の推移

発電所数では 2013年には半分を建物が占めていましたが、2014年をピークに激減し、2017年にはたった 2割ほどになっています。その代わりに増えてきたのが農地です。2017年には、農地だけで 8割を占めるほどになっています。出力数では 2013年から非建物の比率が高く、8割ほどになっています。これが 2017年には 9割にも達します。しかし、山林や公有地・遊休地が減って、畑が圧倒的になっており、野立てが広がってきたこと、またソーラーシェアリングの数が増えてきたことを物語っています。


図15. 地元事業者への発注割合

市民発電所と、それを設置した EPC事業者の関係を調べたものです。同一の市町村内の事業者への発注が 31%、同一都道府県内への発注が 55%で、同一自治体内への発注が 86%に達しました。低圧発電所を中心とする市民発電所では、地域の事業者への発注比率が極めて高く、地域の雇用や産業振興につながりやすいことを示しています。


図16.遠隔監視と保守体制

約半数が遠隔監視を整え、90%がメンテナンス体制を整えていると読むことができます。定期点検はおそらく設置事業者によるサービス契約の結果であろうと思われます。遠隔監視装置は、実際に発電抑制の発見・改善などの効果があり、10kW以上の設備でもまだ半分が未設置であることから、業界には制度改善による需要拡大が生まれていると言えます。損害保険に関しては、広く一般化していることが読み取れます。


図17.費用年報の提出状況

設置年報の方は、かろうじて過半数が取り組めているという結果でした。もともと施工費の内訳など施工事業者でなければ答えられない項目もあり、施工事業者の支援があっての過半数であると考えられます。運転費用年報については、提出率は半分以下となっています。市民発電所の年報提出率が低いことは、小さな発電所の動向が、買取価格を決めるときに反映されない理由の一つとなっているとも考えられます。