市民発電所の事例紹介(2019)



事例01

茨城県神栖市

HASAKI 市民風車「なみまる」

 

設 置 者:一般社団法人波崎未来エネルギー

発電出力:1.5 M

まちづくりのノウハウを生かした市民風車

 

 茨城県神栖市にある市民風車「なみまる」は、地域住民をはじめ全国の市民が出資して誕生しました。高さ約65m、重さ約162t、ドイツ(GE Wind Energy 社)製。名づけ親は地元の小学生です。CO2を排出しないクリーンな電力を年間約1000 家庭分発電しています。

 建設したのは「一般社団法人波崎未来エネルギー」。神栖市で海岸清掃や青少年事業など地域活性化活動を行ってきた同法人が中心に発電事業を運営しています。

 

 「NPO 法人波崎未来フォーラム」の理事でもある遠藤道章さんは、(株)港南運輸の専務取締役でもあります。38 歳から活動をはじめ現在56 歳。次のように語っています。

 「2004 年『取り戻そう美しい鹿島灘、集まれ5 千人の仲間たち』と呼びかけ、14 台のバスで地元の学生や人たちを集め、清掃活動を行いました。私たちはこの海岸清掃から学び、一人一人の力を実感し、こうした活動をする団体を作ろうと思いました。はたして億円単位の建設費のお金は調達できるのか? 皆商売をやっているので、お金を借りる苦労は知っていました。リスクを背負ってなんでやらなければならないのだという声もありました。お金も技術もない。でも、一人一人の行動を結集すれば、市民風車の原動力になると考えたのです」。

 1口50万円。債務保証をとらない(株)自然エネルギー市民ファンドで集め、「集まったことは衝撃的でした。名前しか分か

らない、全国の人とつながったのです」。そして、「利益は地域のためいいことに使うので、やらせてください」とお願いして、2007年、市所有の駐車場についに完成させました。風車には全国から出資した1000人以上の名前が記載されています。

 

 「ちょうど2006年に私たちのいる波崎町と神栖市が合併した頃でしたので、設置交渉には苦労しました」。途中に故障して修理費に5000万円かかったこともありました。やがて、「風力発電が事業化されたことで、自己資金を蓄え、銀行借入ができる信用を得ることが

でき」て、48kwから500kwまでの太陽光発電所6ケ所を建設、その内1基は100kWのソーラーシェアリングです。建設費合計6億4600万円。更に、講座活動、東日本大震災の支援活動、波崎自警団と業務連携してパトロール車両を提供するなど、活動を広げています。



事例04

長野県上田市

相乗りくん とっこSUN発電所

 

設 置 者:NPO法人上田市民エネルギー

発電出力:66.24 kW(モジュール容量)

お米も穫れます。みんなが集まるソーラーシェアリング

 

 上田市民エネルギーの市民出資型のソーラーシェアリング『相乗りくんとっこSUN発電所』は、2018年5月29日に発電を開始しました。相乗りくん(当台帳2017年版を参照)の市民出資+長野県+地元信金の力を合わせた、まさに地域の共同発電所です。この発電所を見守るようにそびえる「独鈷山(とっこさん)」に因んで命名しました。

 

 

 それまで当法人では、資金調達は市民出資だけで発電所を増やしていましたが、2017年度は住宅数軒以外に50kW規模の発電所の案件が4件あり、市民出資が間に合わないと予想して他の資金調達に初挑戦することに。まず長野県の収益納付型補助金(再エネのハード事業に対して補助し無利子で返済)に申込みましたが、この補助金を受ける条件に「地域金融機関の融資を受けること」とあり、上田信金のドアを叩きました。当時は上田で開催された「第2回ソーラーシェアリングサミット」(メイン講師は城南信金の吉原顧問)に上田信金の担当者が参加してくださるなどタイミングがよく、審査に通り、15年融資を受けることができました。早期からソーラーシェアリングに関心を持って研究していた同信金の理解があってこそでした(NPOに融資するのも初めてとのことです)。

 発電開始して以降、本当に大勢の方の視察を受けました。各地の地域エネルギーのみなさん、県外の議員や行政職員のみなさん、アジア各国の市長始めエネルギー担当者たち50人が来られたこともあります。水田でのソーラーシェアリングは難しいのでは?とよく質問されますが、水田は地面が必ず水平なので設置工事がしやすく、また先例ができて生育に問題ないとわかると、たいてい近隣にたくさんあるので波及しやすいと思います。ただ田植えの時期から夏の終わりまでの期間は水を貼っているので工事や修理がしにくいということはあります。

 

 農水省の営農型太陽光発電取組み支援ガイドブック(2018年度版)にも「農家と市民組織が共同で発電設備を運営」と紹介されました。なにより、相乗りくん参加者が何度もこの発電所に集まって、農閑期に田んぼの中を散歩したり、30年度に頂いた環境大臣賞の動画撮影を行ったり、田植え後に稲の生育を見守ったり、そのお米で作った日本酒で乾杯したり……と、みんなをつなぐ相乗りくんのシンボルがまた1つ増えたことを喜んでいます。



事例06

岡山県津山市

津山さくら発電所「道の駅 久米の里」

 

設 置 者:一般社団法人つやま市民協働発電所

発電出力:10 kW 

市民発電所と“道の駅”は、相性ぴったり

 

 地域産品の販売や、周辺地域の交流機能を備え、最近では公民館や福祉施設と並んで欠かせない公共施設になりつつある「道の駅」ですが、その屋根にソーラーパネルを設置し、市民発電所として活用する地域も、徐々に増えてきています。

 

 2003年に誕生した「NPO法人エコネットワーク津山」は、環境活動の分野で津山市との協働を重ねながら、自然エネルギーの活用についてともに研究を重ねてきました。そして今後の展開を考えて「一般社団法人つやま市民協働発電所」、および事業主体としてエコネットワーク津山、津山市、地元企業 2社の出資による「合同会社津山さくら発電所」を立ち上げることに。その結果、2015年4月に「すこやか・こどもセンター」発電所(出力42kW)とともに「道の駅久米の里」発電所が誕生しました。

 資金調達方法として、すこやか・こどもセンターでは擬似私募債を活用しましたが、道の駅久米の里では、大勢の目に触れる施設であることから、インターネットを活用。津山市で創業したベンチャー企業のレプタイル、津山信金、津山市、そして津山さくら発電所の 4者でクラウドファンディングの協定を結び「FAAVO岡山」という Webサイトで募集したところ、目標額70万円を大きく上回る125万円(達成率178パーセント)の資金を158名の人から集めることができました(残り約300万円は、金融機関が融資)。

 

 また、つやま市民協働発電所の目的に「低炭素都市つやまの実現」などと並んで「地域の活性化に資すること」を掲げていることから、支援に対する返礼品には、市内の店舗・施設から協力を得て、阿波(あば)温泉入浴券、つやまラーメン、地元産焼酎など、地域産品をとことん活用。あえて「地域」にこだわったことにより「津山への想いを持つ方からの応援や、市からの理解・協力もいただけるものになった」と、つやま市民協働発電所代表の堤宗之さんは考えています。

 道の駅には電気自動車用の充電スタンドもあるほか、農産物売り場には発電状況を表示するモニターも取り付けられ、まさに低炭素都市をアピール。環境学習やイベントの場としても、道の駅は活用されています。現在は、道の駅や、前述のすこやか・こどもセンターを含む市有施設 4ヶ所において、合計出力92kWの市民発電所が津山市で稼動しています。



事例07

岡山県岡山市

岡輝おひさま発電所、ほか

 

設 置 者:NPO法人おかやまエネルギーの未来を考える会(エネミラおかやま) 

発電出力:28.98 kW

自治体との協働による発電所づくり

 

 2016年度に岡山市立岡輝(こうき)公民館・岡西(こうざい)公民館へエネミラの9基・10基目となる市民共同発電所を設置しました。発電所は2002年以降、岡山市へ6基、西粟倉村と倉敷市へ1基ずつと、いずれもエネミラが公共施設の屋根を借りて設置してきたのですが、これまでと違うのは、岡山市環境保全課と中央公民館(地域公民館を統括する立場)、それにエネミラの3者が連携して企画を練り、「平成28年度岡山市市民協働推進モデル事業」へ「公民館への太陽光発電の設置と環境学習による持続可能な社会の推進事業」として応募し採択された事業ということでした。公民館は教育委員会の管轄のため設置が困難な施設でしたが、環境保全課が仲介することで中央公民館が了承され、実現できました。

 ▲岡輝おひさま発電所

 岡山市に公民館は37館ありますが、南向けの傾斜屋根で築年数が比較的新しいこと、パネルの重量に耐えられる屋根であること、そして公民館が地球温暖化や再エネの連続講座を実施する意欲があるところとなれば、候補施設は限られていました。中には職員さんはやりたくても屋根が不向きという公民館もありました。当初は設置する公民館を3館目標にしていましたが、当該年度では2館しかできず、もう1館の一宮公民館は翌年度に設置しました。公民館は地域のものという認識が強く、運営委員会の了承を得ることが必要でした。そのため、環境保全課、中央公民館、エネミラがそれぞれの立場から誠意をもって意義を説明し、各公民館の館長さんも後押ししてくださいました。そうした連係プレーにより岡輝公民館に28.98kW、岡西公民館に13.86kWを設置することになりました。(一宮公民館は12.6kW)

 

 モデル事業の中身ですが、発電所の設置費用をエネミラが寄付や銀行融資、疑似私募債で賄うことは変わらず、合わせて行う4回の連続講座(座学や西粟倉へのバスツアー)が補助金の対象でした。発電所を設置することだけでも温暖化防止に貢献できますが、公民館は地域における生涯学習の要であり、地球温暖化問題を地域で考えてもらうには最適な場です。これまでエネミラが公民館講座の講師を受けたことはありますが、単発のものばかりで、じっくり温暖化や再エネをテーマに取り上げる機会はなく、この企画を相談する中で館長・職員さんが再エネの重要性を率先して理解してくださったことがなによりも大きな成果だと思っています。また公民館と協働して行うことで職員さんのスキルを十分に発揮してもらえ、とてもスムーズに活動を行うことができました。

 

 公民館は非常時には避難所となるため、エネミラの発電所を非常用電源として提供することになっています。そのことを職員さんが地域のみなさんに伝え、地域の方も寄付に協力してくださったり、発電所の完成を心待ちにしてくださいました。3公民館では翌年度も環境をテーマの講座を開催され、温暖化問題を地域の課題として取り組んでいただいています。



事例09

宮崎県串間市

大生(おおばえ)黒潮発電所

 

設 置 者:くしま木質バイオマス株式会社

発電出力:1940 kW

日本初のペレット製造工場を併設したガス化発電所

 

 大生黒潮発電所は、地元の未利用材を有効活用して、同じ敷地内にペレットの製造から発電まで一貫して行っています。想定年間売電量は一般家庭の4000世帯分。くしま木質バイオマス株式会社(宮崎県串間市、堀口三千年社長)が事業運営を行い、2018年8月稼働を始めました。

 

 宮崎県は豊富な森林資源を有し、杉の丸太生産量は27年連続日本一。木材には山の木を間引く必要があります。間伐後の山には太陽の光が差し込み、健康な山に育ちます。その時に切り出された未利用材を、地元関係者や森林組会から年間約1万9千t購入します。丸太の購入価格は7000円(トン当たり税別、発電所着、証明書付)。「消費地まで運ぶ必要があって大手企業はなかなか進出してきません。森林資源の有効活用として地元木材で電気を作り、電線を引っ張れば地域の活力になると考えました」(堀口社長)

 しかし、事業化には機種選定などに苦労し、一度は事業の断念も考えたそうです。やがてFIT制度ができ、小規模区分(出力2000KW未満)40円/kWhで売電することで「世の中のためになると考え」事業化に乗り出しました。小型ペレット発電システムを10機導入、毎時2tできるペレット工場も新設しました。さらに、余った温水も再利用してバイナリー発電(沸点の低い媒体を加熱・蒸発させてその蒸気でタービンを回す方式)でも発電しています。

 シン・エナジー株式会社が設計・施工と発電設備維持も行っています。資本は地元企業が60%、一般社団法人グリーンファイナンス推進機構(環境省地域低炭素促進ファンド事業執行団体)からも出資しています。林業・ペレット加工・発電で合計約20人の雇用をしました。しかし、半年経過した取材時点では、発電機10台(小規模分散型・1機165kW)の稼働は半分程度。環境にも大きく左右され、一台、一台日替わりで違います。確実に安定稼働してから、10台を稼働するそうです。そして、稼働開始から10ヶ月後の19年1月にフル稼働に達しました。

 

 「難しいのは木材のガス化。途中でやめた人も一杯います。実際に上野村バイオマス発電所(3ページ後)などを視察、同じドイツ・ブルクハルト社製木質ペレットガス化併給システム導入をしましたが、参考にした高山や上野村とは違っていました」。特に、杉の原木は乾きにくい。そこで、コンベア式温水おが粉乾燥装置を設置し、破断した未乾燥のおが粉は、原木の皮を燃やすパークボイラーと発電装置の両方の温水を使って、乾燥おが粉にしています。それをペレット製造設備に移動。木質ペレットは一般販売する他、串間市内に開業する温泉施設に供給することも決まっています。「ペレット製造には運転データなどだけでは、不十分です。職人的な運転技術が必要です。運転要員の技術向上には時間がかかっており、発生したトラブルは必要なステップだったと考えています」と社長は強調します。

 

 このように、この発電事業は「林業育成とエネルギー創出の結果、経済圏が大きくなり持続可能な地方創生もモデル」を目指しています。第2発電所の建設も視野に入れています。



事例10

東京都大田区

大田区城南島飼料化センター

 

設 置 者:株式会社アルフォ

発電装置:バイオガスで1日4,260kWh発電

地域の廃棄食品を飼料原料と電気に

 

城南島第2飼料化センターでは、地域の廃棄食品から生まれる飼料原料と電気を作っています。東京都大田区にある同プラントは、株式会社アルフォが東京都スーパーエタウン事業に応募し、食品廃棄分の飼料化設備にバイオガスによる発電設備を組み合わせことで、2015年に選定されました。そして、2017年7月にプラントを竣工させました。

 

 「予定発電 1日4260 kWh。標準家庭の400世帯分の電気をFIT価格で販売していますが、もっと大規模にしないと、環境価値だけで(発電事業は)経済的にはあわないです」。第2工場はスーパーエコタウンの選定で許可を受けやすくなりましたが、一切の補助金はありません。

 

 同社はもともと事業系廃棄物を収集する会社。資源循環型産業にシフトしようと、食品リサイクルに乗り出しました。受け入れ対象となる主な食品は、食品メーカー、食品卸売業者、スーパーやコンビニ、飲食店など、今まで捨てられていた廃棄食品を飼料化して販売するというものです。例えば、川崎市の小学校33校からも給食残飯も受け入れていています。

 搬入される食品廃棄物を廃食用油と混合し、装置を使い約80%の水分を乾燥させます。「天ぷら方式」とも呼ばれ、工場内は天ぷらを揚げたようなにおいが広がります。その後、不純物を除いて、食品廃棄物が養鶏・養豚用の配合飼料原料に生まれ変わります。受け入れ管理は厳しくチェックされています。弁当の売れ残りまでは可能で、プラスチックまでは分別できますが、紙やたばこ類は分別できません。受け入れ生ゴミは1日90トン(最大300

トン)。キロ当たり23円を支払ってもらい引き受け、出来上がった製品を飼料原料として販売しています。

 

 また、食品廃棄分を油圧減圧乾燥機設備に投入する前に、一定量の固液分離を行い、分離液を20日間発酵槽で発酵させ、乾式脱硫塔を通してドイツ製のガスタービン(GE640)3台で発電しています。

 

 「企業が率先して環境保全に対する取り組みを進めていくことは、もはやあらゆる業界に共通した課題であり企業の責務といえるのではないでしょうか。私たちは、次の世代によりよい生活環境を日気づいていくため、微力ながら資源循環型の社会循環のお手伝いをしたいと考えています」と同社の熊木浩代表取締役は語っています(パンフレットより)。



事例12

群馬県上野村

上野村木質バイオマス発電

 

設 置 者:上野村

発電出力:180 kW

村の発展と経済自立に貢献、バイオマスガス熱電併給装置

 

 人口1159人の群馬県上野村という山間部の小さな村に、2018年約300人が視察に訪れました。「村は衰退していずれは消滅するという思いで、村の林業を産業化しました。入口から出口まで地域内で完結する林業を起こし、150人の雇用を生み出して、Iターン(都心部で生まれ育った人が地方の企業に転職し移住すること)の受け皿も作りました」と神田強平氏(1968年上野村役場入職依頼の村幹部職から立候補、09年~17年上野村村長)は19年7月に東京で開催された「地域型バイオマスフォーラム」で語っています。

 かつて群馬のチベットと言われた村の95%が森林。森林があっても切り出せなかったため人工林が少なく、広葉樹林が6割。そんな小さな村でも一年間で4.6億円がエネルギーにかかる費用として村外に支払われていました。そこで、この費用を一部でも村の中にもってくれば、村は潤い、職場も作れるはずだと考えました。

 

 そこで、村の木だけを利用して作るペレットの工場の建設から始めました。生産される年間1600トンのペレットは、ほぼすべて村内で消費しています。さらに、現代の里山として森を守り、25年に1度の伐採で森林を使い回す計画です。人工林とは違い、広葉樹は伐採しても、自然と株から新芽が芽生えるという持続可能な森といえましょう。

 それから、そのペレットからエネルギーを作ろうと、「全国ありとあらゆる施設を見ましたが、我々に必要なものは日本にはなかった」です。そこで2015年、ドイツ・ブルクハルト社の木質ペレットガス化熱電併給装置を日本で初導入(世界では118号機目)しました。建設費は3億5千万円。国の補助金を活用して造りました。自動運転で、稼働状況はネットでも確認可能です。木質ペレットガス化装置と発電と熱を供給する装置の二つに大きく分かれています。ベレットをガス化して、そのガスをエンジンで燃焼し、180kWの発電と90度Cの温水を供給します。その電気と熱は、隣接施設のキノコ工場にも使われています。そこの付加価値の高い農産物は村の重要な収入源となっています。「小さいか

もしれないが、村の木でやれる範囲で管理しています」。

 

 このように上野村の木質バイオマス発電所は、村の発展と経済自立に役立っています。



事例13

群馬県中之条町

美野原小水力発電所

 

設 置 者:中之条町

最大出力135kW (年間発電量41.9万kWh)

魅力ある街づくり目指し、農業用水を活かす

 

 人口1万6千人の中之条町は2013年6月「再生可能エネルギーのまち中之条」宣言し、「再生可能エネルギー推進条例」を制定するなど、地球温暖化防止(30年度温室効果ガス削減目標13年度比マイナス40%)や東日本大震災以降のエネルギー問題に取り組んでいます。同年に約 4MW(2MW×2)の町営太陽光発電所を2箇所稼動し、同9月には、自治体が主導した電力会社としては全国初となる「一般財団法人中之条電力」を設立し、町内公共施設を中心に再生可能エネルギーを主電源とした電力供給を開始しました。そして17年には約 2MWの「沢渡温泉第3太陽発電所」と最大出力135kWの「美野原小水力発電所」(町営)を稼働させました。

 

 「美野原小水力発電所」は、農業用水として四万川から引いている「美野原用水」を活用した従属発電施設です。発電施設の概要は、クロスフロー水車及び誘導発電機を採用、北側斜面の約6mの有効落差を利用し、水圧管366mを新設し発電後は美野原用水幹線へ放流しています。灌漑期の使用水量0.3㎥/sで最大135kWを発電します。非灌漑期、4月から5月15日と9月から3月までは使用水量0.1㎥/sで常時31KWを発電します。

 厄介なのは取水口にたまる落ち葉などの除塵ゴミ。自動除塵機が取水口に取り付けられていますが、最終的には人間の手で取り除かなければなりません。町の嘱託が平日毎日点検しています。メガソーラー3基と小水力発電所を併せ、点検要員として2人の嘱託職員の雇用につながりました。

 

 年間発電量は41.9万kWh(18年実績)。総工事費2億2376万円、系統接続費用は62.1万円。ただし、東京電力管内における系統連系接続制限区域となり当初完成予定から2年の歳月がかかってしまいました。事業の資金は、農林水産省の農村漁村振興交付金及び県などの補助金が8割、残りを町が出資しました。水力発電設備の施工は(株)ヤマト(前橋市)と(株)千島工務店(中之条町)が施工を担当しました。(一財)中之条電力から誕生した㈱中之条パワーは、メガソーラー4カ所(合計約7MW:民間1件含む)と小水力から電力を全量調達する契約を結んでいます。小水力発電の売電収益の一部は町の経営する農業施設の電気代に使われ、維持管理費の削減と農業振興に貢献しています。

 

 同町では、「ふるさと納税」の返礼品として「お礼の電力」を供給する仕組みを始めました。関東地区に限定されますが、今までの実績は約50軒。この仕組みでは、例えば25万円の寄付者に対し、2500kWh(一般家庭で半年から1年分)を供給しています。

 

 中之条町は森林率86.9%、かつては農林業が主力産業でしたが、里山の荒廃と鳥獣被害が進んでいます。「今ある自然環境を有効に活用して原発に代わるエネルギーを作り出し、魅力ある地域づくり=再生可能エネルギーのまちにしていきたい」と中之条パワー・山本政雄代表取締役は語っています。



事例14

徳島県佐那河内村

新府能小水力発電所

 

設 置 者:佐那河内村

最大出力:45 kW

棚田の村の資源を活かし、大正時代の発電所を復活

 美しい棚田風景が広がっています。村のお米は「ふる里納税」の返礼品としても使われています。この村が2015年10月に先祖代々守り続けたこの地域資源を生かし、佐那河内村「新府能発電所」を完成させました。

 大正時代にも村には佐那河内水力電気株式会社が建設した、最大出力300kW、常時出力120kWの水力発電がありました。しかし、1973年に廃止され、設備は四国電力から村へ譲渡されました。発電所の復活は2010年頃から模索されていましたが、採算性に問題がありました。2012年の固定価格制度の始まりで、佐那河内村は一般社団法人徳島地域エネルギーと全国小水力利用推進協議会の支援を得て検討を始めました。そのヘッドタンク(上部水槽)をそのまま利用し、棚田の水を確保するスペースをそのまま活用するものです。

 写真は農業用水の導水用コルケート管です。発電用の管はこの斜面の地中に埋められていますが、大水がでた時には両方のパイプを使えるようになっています。水車の水は発電後、そのまま棚田に流れます。

 発電所の設計および建設工事は徳島県内の業者が行い、施工は村内の業者が行いました。事業費は7600万円。四国電力との協議した上で、インバーターなどの逆変換装置をしない低圧連携方式でコストダウンを図りました。

 水車はイタリアIREM社のペルトン水車。当時、日本製はこの3倍も高かったそうです。この発電機には立軸6射ペルトンと三相誘導発電機で装備しています。構造が簡素で水量の増減に対応しやすいで、欧州では多数の実績があります。

 

 水量は毎秒40リットルとわずかながら、有効落差が130mとあるので、出力は最大45kW、平均28kW、年間発電量は約28万kWh(実績)。約60世帯の1年間分の発電量と同じだけ発電をしています。FIT単価34/kWh(税別)で四国電力に販売しています。年間売電売り上げが900万円台、1千万円も見込まれます。発電所も水利権も村にあり、地域の資源利用で事業費も7600万円とかなり抑えることができました。半分は国から、半分は村から出しています。水路の維持管理は月5万円で地元用水組合に依頼、ここでも管理費節減と地元還元につなげています。また、売電益は農業集落排水処理施設の電気代に充てられているなど、農業する人もいなくなる中、農業振興にも一役買っています。

 

参考文献:全国小水力利用推進協議会「小水力発電所事例集2016」